2024年8月19日月曜日

ネット難民

 

パート1 若者の死

 

西暦2089年の東京。ある20代の青年が部屋の中で死んでいるのが発見された。死因は圧迫死。警察が調べた結果、事件性は無く、ただの自殺と判断された。自殺する原因は無かったものの、彼は部屋に閉じこもりがちのネットオタクだった。この事件は話題になることは無く、すぐに忘れ去られていった。

 

 後に同じような青年の自殺が何件か続けて発生した。しかし、どれも事件の原因は無く、警察は同じように自殺として処理をした。これらに共通する事はいずれも属性はネット難民に近い人や、ネットで中継を行う事を趣味を持っていたこと。彼らは部屋から出ない事が多かったということである。そして、両親や知人もその自殺の原因に心当たりが無かった。

 

 結城未来はふとしたことから、これらの事件に興味を持った。何も問題のない・ただの20代青年たちの自殺、趣味はネット難民。特に大きな人生の悩みもない、自殺する原因は見当たらない。共通点はいずれもネットを通じて誰かと接点を持っていた形跡があるということ。未来はこれらの事を箇条書きするかのように並べて整理をしていた。そして、ある事に気付く。

 

 自殺の原因は不明、ネットを通じて誰かと接点を持っていたということ。彼らはいずれもネット難民であり、自分の居場所をネットに置いていた。家族や知人は、それは彼らにとって娯楽であり、ネットで何かを中継していたり、ゲームを楽しんでいるとか、動画を見て時間を潰しているとか、極めて普通の使い方をしていることを前提にしていた。だが、未来は違う観点を発見する。それはネットを通じて誰かと意思疎通を図っていたのでは?ということだった。なぜそう思ったのか未来には言葉に出来なかった。ただ、そのように感じただけだった。

 

 未来は事の真相探るため、ネット内に同じような事件を扱う記事が無いかを調べた。未来はネット探索によって警察が自殺と処理したこれらの事件の噂話を調べた。そして未来は見つける。20代の若者たちを自殺という死に導いた存在、それは巨大な黒い影だった。

 

パート2 ネットカフェ

 

 未来はネットにもぐる事にした。未来は自らの意識をデジタル化し、ネットの中に入っていく。ネットの中の入り口はトンネルのように真っ暗で体が流されていく。未来は自分の体が麺のように細長くなっているのを感じた。「相変わらず、慣れないや。この感覚。」やがてデジタル化された未来は灯りの付く場所に辿り着いた。未来は意識を20代の女性にセッティングした。10代では事件に巻き込まれる可能性が高くなるからだった。未来の体はそのままだが、他人から見ると20代の女性に見える。それは未来の意志に基づき、意識が世界を作っているからである。これもデジタル世界だけの特性だった。

 

 デジタル化された未来の意識が見る世界。それは世界が見るその人の意識にとって変幻自在に変化する世界だった。だがどんなに自在に変化する世界であっても、その人の意識が求めている物と出会う。その人の求め方で。それは2089年の東京世界という現実にはない体験だった。

 

 未来はとりあえず都内にあるネットカフェへ行くことにした。バッグから白い財布を取り出す。「とりあず TK-Neon を支払おう」未来はネットカフェへと入って行った。学生証を見せて手続きをする。

 

 ネットカフェの店内は清潔で快適に使用できる環境だった。ワンフロア全てがネットカフェであり、食堂も付いている。もちろん食べながらネットをすることも可能だった。店内はシャワールーム、休憩室もあり、1日以上の滞在も可能だ。時間を潰すには十分すぎる程だった。

 

 早速未来は席につきネットを始めた。デジタル化された意識の中でネットをするのも不思議な話だ。いくらデジタル化されているとは言え、人間の意識は日常の中でこそ保っていられる。世界がガラッと変わると意識に変調を来たし精神が壊れる可能性もある。だからこそありふれた日常こそが人の精神の居場所だった。

 

 未来が画面を眺めていると、突然知らない人が声を掛けてきた。「お姉さん、ネットが趣味なのかい?」未来が驚いた様子で見ると、「ここに来る人はネット難民率が高いんだ。でないとわざわざ来ないからね」「お姉さんもネットに身を置きたい人なんだよね?」「現実社会はストレスだらけで逃げて来たんでしょ?」「ストレスに弱い人はネットに逃げ込むんだよ」「中には犯罪に走るネット民もいる。ネットは薬と同じなんだよ」

 

 未来は「よくペラペラと喋る人だ」と思った。こっちが質問していないのに。未来はとぼけた口調で言った。「ネット難民って最後は自殺しちゃうし。ネット難民の最後って空しい結末だわ。」

 

 男は未来の言葉に何も反応しないようだった。未来は続けて言った。「だって少し前にネット難民の若い男性たちが立て続けに自殺したし。ネット難民の行きつく場所は自殺だって。まあそれもたくさん存在する人生の結末の1つだと考えれば納得だけど。」未来はいつしか学校の授業で耳にした言葉を口にしていた。まだ未成年の未来にとって、これは大人の口調になっているのかどうか?気にしつつも。何といっても相手から見れば私は20代の大人の女性に見えているのだ。ばれないかどうか内心ヒヤヒヤしていた。

 

 男性は暫く間をおいて「ああ、最近起きてる連続自殺ね。あれ、ネット難民でネットにはまり込んだ青年たちの自殺って言われているね。でもあれは、自殺じゃない。殺人だよ」男は平然と言った。

 

 未来の目がその言葉に一瞬鋭くなった。現実では警察によって自殺と処理され、メディアでも扱われない。口に出す人が少ないこの事件について、自殺ではなく他殺扱いするこの男に未来は興味を持った。

 

 「あら、殺人?自殺でしょ。ネット難民の行く果ては自殺。彼らにふさわしい最後じゃない?それがどうして殺人になるわけ?」

 

 未来の言葉に男は無口になった。さっきまでの軽いノリがパタッと変わったのを感じた。男は口を開いた。「ネットにはまり込んだ青年たちが自殺した。世間では確かにそう言われているだろう。俺もその詳細は知らない。だが、この世界では噂されているんだ。あれは青年たちの自殺ではなく殺人だと。」

 

 「殺人?犯人は誰?どうやってパソコンの前にいる人を殺せるの?そんなの不可能でしょう?」未来はわざと相手を見下すような口調で言った。その方がこの男から情報を引き出せると思った。

 

パート3 出会ってはいけない存在

 

 「さっも言ったが、俺も事件の詳細は知らない。だが噂では、ネットにはまり込んだ若者たちが現実から逃げる為に 永遠にネットに留まり続ける術 を模索していた。そう、 永遠にネット世界に留まり続ける方法。 

 

 未来は「それが自殺だと言うの?それなら事はシンプルだわ。殺人じゃない」

 

 男は続けて言った。「そう、ネットに留まり続ける為に、現実から逃げる為に自殺する。これなら特別な話じゃない。ただの自殺だ。」

 

「でしょ?殺人なわけないわ!」未来は飽きれるような口調で言った。もちろんワザとだが。

 

 「お姉さん?世の中には様々な事情を抱えている人がいるんだよ。もし現実から逃げたいという若者たちを言葉巧みに騙せる存在があったとしたら?」

 「なんですって?」未来は驚く口調で言った。

 

「ネットに逃げ込む人はほとんどがストレスに弱い人や現実から逃げたい若い世代たちだ。つまり精神的に未熟者たちだということ。もし彼らが ネットの世界で出会ってはいけない存在に出会ってしまった ら、どうなると思う?」

 

 「どういうこと?」子供の未来には理解できなかった。

 

 「現実の世界では出会ってはいけない危険な人物と出会う確率は0ではないもの、そうは起こりえない。普通に生きている人たちは特にね。だが危険な人物たち当然ネットを使う。彼ら若者と同じようにネットにもぐりネット難民をターゲットにすることもある。今回、自殺という形で殺害されたネット難民たちはまさにそのケースだろう。」

 

 「それって一体!?」

 

  口に出す未来の言葉を男は強い口調で遮った。

 

 「さっきもチラッと言ったが、 世の中には出会ってはいけない存在 というものがある。それは本当の闇 だ。お姉さんはここから先、知る必要はない。知ってしまうと命の保証はない。よく言うだろう? 闇を覗く者は闇に覗かれる って。今回のケースはまさにそうなんだよ。」

 

 「 もう一度だけ言おう。お姉さんは事の真相を知る必要はない。これは最終警告だ。 

 

 未来は男の言葉と態度にこれ以上は無理だと判断した。未来は黙ってコクっと首を縦に振った。男はそれを見てそのまま未来から離れて行った。未来は圧迫感から解放されていく。

 

 一人になった未来の手は汗でヌルヌルになっていた。未来はバッグを手にふらついた足でシャワー室へと向かったのだった。

0 件のコメント:

コメントを投稿

밤 9시, 각자의 방에서 (夜9時、お互いの部屋で)

  밤 9시, 각자의 방에서 (夜9時、お互いの部屋で) ------------------------------------------------------- 치하루는 침대 위에 앉아 무릎을 끌어안은 채 스마트폰 화면을 바라보고 있었다. (千晴はベッドの上に...